昔は、どこでもつくられていたものです。漢字で書くとおり「自根=自分の根」つまり、自分の根で育ったきゅうり。市場に出まわっているほとんどのきゅうりが、かぼちゃを台木に接ぎ木をされています。これは80年代の半ばごろからいろいろな野菜ではじまったもの。
昔、とあるスーパーでの出来事です。お客様が、きゅうりが本来皮にだす白い粉を「これ農薬じゃないの?」とお店の人に質問しました。
店員もそう思い込んでしまい、「農薬をかけない(白い粉をふかない)きゅうりがほしい」と農家にたのみました。
そこから、かぼちゃに接ぎ木をした、粉をふかないきゅうりがつくられるようになった・・・というハナシがあります。
接ぎ木をしたきゅうりは、連作障害を防ぎ、病害虫にも強い。きゅうりの場合は皮がかたくなり、輸送の傷みにも耐えられるようになったという、味よりも見た目と流通の面が優先されたものが接ぎ木きゅうりなんです。
そうとは知らずにいつもの年と同じように漬物づくりをしていたある年、急にきゅうりが漬からなくなりました。接ぎ木きゅうりは皮がかたいので、塩が中まで 浸透しません。ある漬物メーカーさんを見学したとき、きゅうりに何十本と針で穴をあけて、塩を浸透させていたのはそういうことだったんだ、とその時思い出 しました。
でも、僕が選んだのは、強制的に塩をなじませて、何が何でもこの接ぎ木きゅうりを漬物にしてやる!っていうことじゃなくて、本来あるべき姿の野菜(きゅうり)で美味しい漬物をつくろうということ。
でもあたりを見回したら、みんな接ぎ木きゅうりをつくりはじめていて、「昔のきゅうりを・・・」ってお願いしても賛同してくれませんでした。
そうなると、燃えちゃうの、僕。「それなら俺が昔のうんめぁ(うまい)きゅうりをつくってやるよ!」ってなっちゃいました。平成元年が最初の年で、目もあてられぬほどの収量。笑われましたよ、「八木澤のおやじの新しい道楽は土いじりだ」って。
でもね、今、陸前高田は「自根きゅうりの里」なんです。このあたりのきゅうり生産農家さんはみんな、自根きゅうりをつくっているんです。
なぜかって?簡単。うまいから。きゅうりギライの子が見学に来て、畑でいきなりボリボリ3本一気に食べたことがあるくらい。
たしかに、接ぎ木きゅうりは自根きゅうりに比べたら作りやすいかもしれない。でも、僕は自分のこころと舌に正直でいたいと思いました。
本当にうまいんだよ、自根きゅうり。糖度が高くて、すごくみずみずしいの。そんなきゅうりを贅沢にも漬物にしてるんです。歯ざわりも全然違うし、噛みしめるほどに伝わるうまみは格別。
ぜひ、おためしあれ。夏、見学(予約あり)にいらした方には、もぎたてきゅうりに味噌やもろみをつけてご馳走(ってほどじゃないけど)しています。
なつかしさがこみ上げてくる美味しさですよ。